港も見える丘から

人生のゴールデンエイジにふと感じることを綴っていきます

NO.90 月兎耳の家 稲葉真弓さん 最後の小説

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  「私、人生をやり直したいと思ったことは  一度もない」

       最期まで作家としての生を全うした
        著者の息遣いが聞こえる遺作

 

 

2014年8月の終わりに逝去された

稲葉真弓さんの小説三編が刊行されました。

ダイヤモンド地下街有隣堂で目に飛び込んできた帯に
書かれた一言が私の心を捉えました。

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稲葉真弓さんは1950年、愛知県生まれ
73年「蒼い影の痛みを」 女流文学賞
80年 「ホテル・ザンビア」作品賞
92年 「エンドレス・ワルツ」女流文学賞
95年 「声の娼婦」平林たい子文学賞
08年 「海松」(みる) 川端康成
10年 芸術選奨文部科学大臣
11年「半島へ」谷崎潤一郎賞・中日文化賞
12年 同上 親鸞
14年 紫綬褒章受賞 8月 逝去

 

 

作家として詩人として、精力的に書かれた素晴らしい作家です。
一度お目にかかって真弓さんの魅力に惹かれ、
小説を読み耽り、いつか、愛知県志摩半島の別荘へ遊びに行きたいと
思っていました。

が、おととし、突然の訃報が届きました。
まだ64才でした。
まだまだ、これからという時に病魔に倒れました。

 

昨年、私は真弓さんの別荘を訪ねました。
親しい方から最後の時にどう過ごされたかお聞きしました。

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ここは真弓さんの書斎です。

 

真弓さんは最後の最後まで書くことを諦めずに、
創作意欲を持ち続けたそうです。

その時に書かれた作品が、この三編です。
私は心して居住まいを正して本を読みました。

 

 

・月兎耳の家
昔女優だった叔母の身の回りの世話をすることになった
初老に差し掛かった「私」は、叔母と古い叔母の女友だちとの
物語を聞いていきます。
失った赤ん坊を思うあまりに正気を失っていった女友達。
彼女面倒を見続けた叔母。
この二人がひっそりと住んだ月兎耳の茂る家。
静かな狂気をも感じる一編です。

 

f:id:tw101:20160909200118j:image  月兎耳 つきとじ

 

 

・風切橋奇譚
あの世とこの世を結ぶ橋を見まもるために選ばれた美弥。
彼女は大好きな叔父が愛した女性の後を引き継ぎ、橋のたもとの
古い家に一人で住んでいました。
この世に未練を残したものたちが、たった一度、あの世から
渡ってくることができる橋。
美弥が本当に愛した人は…?
生と死が優しく触れ合う泣きそうな小説です。

 

 

・東京・アンモナイト
自分の過失で弟を死に追いやってしまったという深い傷を負った少年「僕」
クル病の年老いた猫を可愛がる南の島から来た娘マチ。
この二人がコンクリートの都会から、マチの生まれた島に船出します。
船も操ることができたのに、父親への反発でやめてしまっていた少年は
年老いた猫が最後に光いっぱいの島で死ねるようにと
二人は旅たつのです。
死を超える生の力強さを感じました。

 

 

生きなさい。
好きに生きたらいいわ。
嫌ことなんて、しなくていいのよ。
ほら、光が満ちているでしょ。
好きに生きなさいな。
と、何度も言ってくれました。

読み終えて、目尻に溜まった涙を拭い、
私も人生をやり直したいと思ったことは
一度もないーと思いました。

 

 

還暦のお祝いに大切なお友達から
プレゼントされたブックマーク。
これからはこの子が私の本のお友達だね
ふと、思いながら、
ブックマークを外しました。

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