港も見える丘から

人生のゴールデンエイジにふと感じることを綴っていきます

NO94. 中丸校舎を失った時代を思う

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日本が開国した後すぐに、

横浜に上陸したプロテスタントの宣教師は
女子教育を充実させたいという思いで
山手の丘に小さい私塾を開いていきました。

山手に開校したメリー・コルビースクールは

校名を変え、神奈川区中丸の丘に移転しました。

私の母校は今年創立130周年を迎えました。

130年の歴史の中で最も困難な時代は
第二次世界大戦時代ではなかったかと思います。

1945年5月29日 横浜大空襲で犠牲者を出し、美しい校舎を消失しました。

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先日、文化祭に行き、再発見シリーズ5という資料を頂きました。

その中にあった、高校時代、国語を教えていただいた初枝先生の
「思い出 ー 戦中から戦後にかけて」を読み、衝撃を受けました。

先生から選択授業の 近代文学史で学んだことを今でもよく覚えていますが、
先生の人生についてなど、何も知りませんでした。
あまり、ご自分のことをお語りにならなかったのでしょうか。

あるいは、私が気にも留めなかったのでしょうか。

 

 

 

…………退職する日が 近づいていた頃、或る日の高三の授業が思い出される。
教材は阿川弘之の「雲の墓標」で、昭和18年、学徒兵の特攻隊出撃の時が迫っていた。
「私が教師になったのは、この18年でした。」と、ふと口をすべらした。
それまで眠そうにしていた生徒たちが一斉に私を注目した。
戦争を知らない生徒たちにとって、一瞬、それが現実化したかのようであった。……

 

 

冒頭にある一文読み、衝撃を受けました。
そうか、初枝先生は戦争中、すでに教師をされていたのかと、思いました。

私は戦後11年で生まれました。
たったの11年しか経っていなかったのです。
北山修戦争を知らない子どもたち」を無邪気に歌っていた高校時代、
初枝先生から戦争体験を聞いたのに忘れてしまったのか、
当時は戦争中の話をすることはタブーだったのか
わかりません。

 

 

今になって資料を丁寧に整理し、事実を伝えようとする先生たちの
熱い思いがあって、私はこの過去の歴史を知ることができたのです。

 

 

先生が奉職した昭和18年は思想統制が厳しくなって来て、
キリスト教主義を取り下げた学校があった中、

毎日礼拝がおこなわれていました。

のちに桜美林学園を創設された清水安三先生が講演に来られ、
キリスト教の役目はこの戦争を浄化することだ」と説かれたそうです。

昭和19年になると勤労動員令が下り、東京兵機株式会社、
東京芝浦電気工業研究所で働くようになりました。
年若き生徒たち学校農場で作業に追われ、学ぶ時間はなくなりました。
昭和20年6月から焼け残った関東学院の教室を借りて授業が再開され、
8月に終戦を迎えます。

 

 

………… 戦争から解放されたが、衣食住は極度に欠乏していた。
心は更に飢えていた。
みんな虚脱感から抜け出すために、与えられた自由の本質を求めずにはいられなかった。
朝のラジオのフランス語講座で、前田陽一さんが「パンセ」をテキスト用いられた。
戦時中に森有正さんの「パスカルの方法」に出会っていた私はいずれも故人なられたが、
このお二人を通して「パンセ」から豊かな糧を与えられた………

 

 

終戦後まもなく、アメリカからエーカック先生が来日され、

学校復興ためご尽力されました。
米国からもたくさんのララ物資送られてきました。
昨日まで敵国人であることを忘れ、多くの生徒が信仰の道へ導かれていきました。

 

 

私が小学校4年生の時、ミス・エーカックは訪日され、

創立80週年記念礼拝にいらっしゃいました。

 

その時、講壇の下の聖歌隊席にすわっていた私は

自由な闊達な学校で学べる幸せなど思ってもみませんでした。

当たり前だと思っていました。


多くの犠牲の上で手にした自由、
その本当の意味をどれだけの人が理解できたのでしょうか。

戦後71年経って、より自由に、幸せな未来を築いているのでしょうか。
子どもたちに昔は良かったなどと言ってはいないでしょうか。

 

 

初枝先生と“自由って何だろう”と、話してみたかった…と思います。

「成長期の生徒の夢と時間を奪った時代に憤りを感じます。」
あとがきに書かれた言葉が重いです。

私も歴史の一コマを生きているのです。
だから、その一コマで感じたことを、伝えていきたいと思います

資料係のみなさまに敬意を表します。
ありがとうございます。

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