港も見える丘から

人生のゴールデンエイジにふと感じることを綴っていきます

NO.153. 『中島敦展』〜魅せられた旅人の短い生涯

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2019年10月12日 

未曾有の大型台風 第19号 ハギビスが接近しています。

前回の台風15号ではここでも木が折れるなどの被害が出ました。

人間の手に負えない大きな自然の力を見せつけてられる思いです。

 


台風の前の静けさの中で、一人の天才作家に思いを寄せます。

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横浜山手にある神奈川近代文学館は私のお気に入りの場所です。

先日、心惹かれる作家の一人である中島敦展に行ってきました。

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高校2年生、『山月記』を現国教科書で読んで以来、

中島敦にすっかり魅せられていましたが、

今回、これまで、知らなかった事を多く学びました。

 


学芸員の方が作成された「ワークシート」があり、

それを携え、

第1部「彷徨する魂」

第2部「実りのとき」

第3部「生きている中島敦

という順路で周りました。

ワークシートの出題に答える形なので、

いつもはざっと目を通すだけのところを倍の時間をかけて周りました。

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中島敦は1909年5月5日、東京四谷の生まれです。

漢文の教員をしていた父 中島田人、旗本の家柄の出で、

小学校教員もしたこともあるチヨの長男として生まれました。

翌月、6月19日に太宰治が生まれました。

二人は同時代を生きたのですね。

 


両親が離婚した後、父は離婚再婚をし、二人継母と暮らします。

中学はソウルの京城中学校、高校は第一高等学校に入学します。

成績は常にトップ。漢学の素養もある敦でしたが、

肋膜炎のため1年休学。

喘息の発作に悩まされながら小説を書き始めました。

 


1933年、東京帝国大学大学院生の身分で、

横浜山手にある私立横浜高等女学校(現 横浜学園高等学校)で、

生徒に大人気の若い教師となり、英語と国語を教えます。

そして橋本タカと結婚し、

長男たけし君うまれ、家庭的にも充実し、

多くの作品を執筆しました。

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同時期には私の女学校の大先輩、

渡辺はま子さんも音楽の教員として奉職していました。

絶大な人気を誇ったはま子先生と敦先生、

どんな会話をしたのか、想像の余地が多いにあります。

 

 

 

 


喘息が思わしくない中島は、

思い切った天地療養を試み、教職を辞し、

1941年、パラオ南洋庁に赴任し、

現地の子どもたちに教えるための、

日本語教科書の改訂と編集に取り組みました。

現地に赴く際、深田久弥に自身の原稿をまとめて託しました。

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最初は観るもの、聴くもの、珍しく、

植物や人々の生活を描いては

息子に楽しい葉書を送っています。

子煩悩な父親の姿が重い浮かびます。

 


1942年2月、深田久弥が『文学界』に推薦した

山月記』『文字禍』で文壇デビューを飾ります。

 


当時、パラオは日本が統治して、陽気に生きている島の人達に

帝国主義を押し付けてるための日本語教育をすることへの疑問と、

喘息がよくならなこと、また太平洋戦争の激化で帰国します。

 


『文学界』に発表した『光と風と夢』は芥川賞候補にもなり、

こののち、専業作家生活に入ります。

 


しかし、持病の気管支喘息はますます悪化、肺炎も起こし、

師走に入ってすぐ、12月4日、世田谷の病院で息を引き取りました。

33歳の若さでした。

作家活動期間は1年という極めて短い時でした。

 


『李陵』他の作品は没後公表されますが、

格調高い漢文調の文体とユーモラスな文体と巧みに書き分けた作品は

多くの読者を得ていきます。

特に国語教科書に掲載された『山月記』は広く中島敦の名前を広めました。

 


私は母を亡くした翌年に『山月記』を読みました。

母のいない寂しさと悲しさで本ばかり読んでいました。

作家の言葉に傾倒していました。

 

 

 

……「我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心」

「人生は何事をも為さぬには余りに長いが、

 何かを為すには余りに短い」……

 


山月記』にある言葉を好んでいました。

 


ちなみに高等学校で採用されてきた作品 

ベスト5は以下の通りです。

1、夏目漱石 『こころ』

2、芥川龍之介羅生門

3、森鴎外  『舞姫

4、志賀直哉 『城の崎にて』

5、中島敦  『山月記

 


今の高校生は中島敦を知らないのだなぁと思ったら、

大きな間違い!

彼は漫画「文豪ストレイドッグス」の中で

「月下獣」という異能力を操る探偵として実名で登場してます。

また、細田守監督によるアニメ映画「バケモノの子」には

悟浄出世』が参考文献として挙げられています。

すごいですね。

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ワークシートを完成した記念にファイルをいただきました!

 

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太宰治宮沢賢治しかり、

この時代の多くに作家は結核になっています。

生まれつき、丈夫な身体でないから、子どもの時から本を読み

思索に耽るのかもしれません。

 


喘息だった私も「お外で遊べない子ども」だったので、

本ばかり読んでいました。

 


こうしているうちに、次第に強くなる雨風…

人間の力ではなす術もないことを噛みしめます。

どうぞ、お守りください…と祈ります。