港も見える丘から

人生のゴールデンエイジにふと感じることを綴っていきます

NO.179 《海と毒薬》と井上陽水

f:id:tw101:20200407081127j:image

 


ツタヤディスカスから届いた「海と毒薬」を観ました。

原作は1957年に発表された遠藤周作の小説です。

 


高校時代、開局して間もないTVK 神奈川テレビの

公開収録に行った時のことでした。

 

モジャモジャ頭の兄さんと目が合いました。

収録を観に来ていたお客さんも帰ってしまい、

私も帰ろうとかなあと思っていましたが、

なんとなく呼ばれているような気がして側に行きました。

 

収録が済んで暇だったのでしょうか、ちょっとした会話をしました。

私が「サインくださいますか」とおそるおそる尋ねると、

「いいよ」と気さくに応えてくれました。

 

ノートなどがあればよかったのですが、

持っていたのは、小さな黄色いバスケット一つ。

中には読みかけの本しかありません。

 


それは倫理社会の読書感想文を書くために読んでいた

『海と毒薬』でした。

f:id:tw101:20200407081559j:image


「これしかないんですが…」とモジモジしながら、本を出すと、

「へえ、キミ、こんな本、読んでるの?へえ…

ねえ、どう思う?」と質問されました。

ドギマギした私、何と答えたのか全く記憶にありません。

少し受け答えをしている間に

カバーを外し

裏側の白地にサインをしてくれました。

 

井上陽水

 

「名前なんというの?」

「トシミです。コトブキに真実の実です。」

「ふうん、寿実ちゃんね」

 

f:id:tw101:20200407081200j:image サングラスはかけてませんでした。こんな感じだったかしら…

 

 

私はその頃、まだ井上陽水さんをそれほど知りませんでした。

「人生が二度あれば」「断絶」を聞いて、

なんて高音の綺麗な声なのかしらと思いましたが、

まだ、そんなに売れていませんでした。

TVKは売れてないけど、実力のあるアーティストが出ていて

それが楽しみで、一人でよく出かけていった頃です。

出演された方はみんな後にビッグアーティストになっていきました。

ちなみに当時ナショナルショールームでも公開収録していて

こちらには人気者がたくさん出演していました。

 

しばらくして、熱烈な陽水ファンである先輩に

そのサイン付『海と毒薬』をプレゼントしてしまいました。

ああ、なんということ!

今ならお宝になっていたのに…。

 


今回「海と毒薬」の映画を観て、

なぜか遠い日の思い出が浮かんできました。

 


さて、この映画は1986年制作、全編白黒写真です。

太平洋戦争末期の1945年に行われた米軍捕虜への臨床実験における

若き医師勝呂の葛藤を通して、生命の尊厳、神の存在、

罪と罰を問う遠藤周作の内容に衝撃を受けた熊井監督は

1969年に脚本を完成しますが、出資者探しに難航し、

実際に映画化されたのは、17年後の1986年だったのです。

1987年第3回ベルリン国際映画祭銀熊賞審査員グランプリ部門受賞。

1986年度第60回キネマ旬報ベストテン日本映画第一位

及び日本映画監督賞受賞作。

 

f:id:tw101:20200407081250j:image

 


あらすじです。

九州のF市にある大学病院。橋本教授と権藤教授による学部長選挙前の権力争いが勃発する中、結核患者に積極的な外科手術を施し、結果を出して、権藤教授に打ち勝つとうと考える橋本教授は焦っていました。

そこに撃墜されたB29搭乗員8名が連れてこられ、軍の命令により、生きたまま解剖するという人体実験を秘密裏に行うことになります。

人間の内臓が摘出されても生きていられるのか…尋常でない実験に参加を余儀なくされた研修医勝呂は良心の呵責に苛まれます。一方、同期生戸田は極限状態でも、何の感情も湧かない自分を疑い始めます。

神への信仰を土台にした潔癖なドイツ人である、橋本教授夫人に「あなたは神が怖くないのですか」と窘められた不満から、夫人に反発する気持ちで実験に参加した上田看護婦と三人は終戦後、GHQの事情聴取を受け、なぜ、参加したのか問われ、その答えを追うように、物語が進行していきます。

 


キャストがすごいです。

 

勝呂: 奥田瑛二

戸田:渡辺謙

橋本教授:田村高廣

権藤教授:神山繁

大場看護婦長:岸田今日子

上田看護婦:根岸季衣

ハットリ調査官:岡田真澄

他にも豪華キャストです。

 

f:id:tw101:20200407081316j:image

 

f:id:tw101:20200407081324j:image


鼓動する心臓を鷲掴みにする人体解剖シーンは

実際に犬を開胸して撮影したそうで、リアルでした。

 


この作品を世に出した時、脅迫めいた手紙が

遠藤周作の元に送りつけられたそうです。

 


私は当時、遠藤周作作品の真の意味が理解できずにいました。

『イエスの生涯』に描かれる疲れ果て、

惨めに死んでいったイエス像を到底受け入れられませんでした。

私にとって「イエスさまはスーパーヒーロー」だったから…

 

「海と毒薬」を読んで、衝撃を受け、

遠藤周作作品から逃げようとしながら、

結局、奥深いところで捕らえら、離れられませんでした。

『沈黙』『死海のほとり』も読んでは、心が沈んでいきました…

 


恥の文化で、罪の意識がない日本という国…

キリスト教は根づかない…

そうなのだろうか…よく考えこんでいました。

 


恥を知り、礼節を重んじた日本人の誇りは

まだ受け継がれているのでしょうか…

もともと罪意識の低い国民性、

恥もなくたったら……大丈夫?

ルース・ベネディクト菊と刀」を読みつつ思いました。

 

 

新型コロナウイルス感染が都市部で急速に拡大している事態をうけて、

本日、緊急事態宣言が7都府県に出されました。

私たちはどう行動していったらよいのか

テレビから流れるコメンテーターの言葉を鵜呑みにするのでなく、

静かに思考する時間を持って、

自分の行動を決めることができたらと思います。

 


満開の桜は美しいものですが、

葉桜もまた良いものです。

 

f:id:tw101:20200407081358j:image