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港も見える丘から

人生のゴールデンエイジにふと感じることを綴っていきます

NO45 中将姫物語 その二

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川崎小虎 伝説中将姫 1920(大正9)年



中将姫は恋しい母と別れて悲しみに沈んでおられましたが、
供養を怠らず毎日念仏されて暮しておられ、1年が過ぎました。
法事満座の夜、夢に美しい菩薩が雲に乗り光明を放って寝所にこられ、
汝の母が確かに浄土に往生したことを告げるために姿を現したとおっしゃり、
阿弥陀仏を頼んで一声称念する信力で罪深い女人でも
極楽浄土に往生できると告げられたのです。

それから時は流れ、再び夏になりました。
母のないさみしさは癒えることはなく、
姫は父に新しい母君を迎えてくださいますようにと願い、
父も心を動かし、照夜の前をめとられました。

姫は新しい母を実の母と思い、たいそう喜ばれましたが、
ある夜、夢に菩薩が現われ、
「この母とは前世の悪縁の取り合わせによるもので、
大きな災難にあうでしょう」と告げ、西の空に去っていかれました。

その時は夢の中のことと思っていた姫でしたが、
次第に夢は現実になっていくのでありました。

天平勝宝6年3月3日、時の帝、孝謙天皇は女帝らしく盛大に桃の節会を催されました。
両親とともに、8歳の中将姫も招かれました。
幼いけれども和歌・管弦に優れていた姫は祝宴で、琴を見事に奏でられました。
気高い音色は神秘な調べをもっていて、天皇は深く感動され、
「今宵、演奏した中で中将姫が最も秀でていた」とお褒めになりました。

一方、継母の照夜の前は筝のお役につきましたものの、
習得していなおものでしたから、困惑され、案じた侍女がお役目を代わり、
首尾よくその場をとりなすことができました。

ところが、このような晴れがましい宴席で
失態を演じてしまったことを恥じた照夜の前は、
わが身の才能がないことを忘れ、
継母根性から姫を逆恨みするようになってしまいました。

秋風の吹くころ、照夜の前は無事男子を出産され、
豊成卿は後継誕生をたいそう喜ばれ、豊寿丸と名付けられました。
姫も弟ができたことをこの上なくうれしく思われ、慈しみましたが、
照夜の前は、邪魔者の姫をなおさら憎むようになりました。
まことに女の嫉妬ほど世におそろしいものはございません。
うわべは仲睦まじく見えても、姫は美しく成長するにつれ、
嫉妬の炎は燃え怨念の刃を研ぎ澄ませていきました。
そしてついに、姫を亡き者とする策略を考えつき、
ある時、山下藤内載則という側近を招いて、
寝所に忍び込み、ひそかに殺すように命じました。

豊寿丸が家督を継いだときにはその子則重を
第一の執権とならせるという甘言にすっかり欲に目がくらみ、
藤内載則はその命を受けて、家に戻りました。

父が語る一部始終を聴いた息子小次郎則重は、
18歳という若さでありながら、賢く、正義感にあふれる人物であったので、
即座に父を戒めました。
しかし父はかえって腹を立て、思いとどまることはできないと悟り、
こうなった上はわが命を捨ててまでの姫をお守りする他はないと決心したのでございます。
そして一人自室に下がり、書置きをしたため、
両親に別れを告げ、家を出て、姫君の御殿の警護の許しを得ました。

やがて日も暮れたころ、小次郎則重は父に顔を悟られぬように薄墨で顔面を塗りかくし
父を待ち受けました。
夜も更けたころ、曲者が塀を乗り越えてまいります。
まず、太刀を抜き、大声で脅しつけ、退散させようと目論見ますが、
息子と知らない藤内は大事の前の小事と心得、
すぐさま太刀を抜いてきりかかりました。
息子のほうは当然、手加減してしまい、ひるんだ時に切り付けられ、
父の刃に倒れてしまいました。

騒ぎを聴きつけたものの気配も感じ、さすがに今夜は失敗と思い、
藤内は家に逃げ帰ります。
すぐに屋敷に知らせが届き、御殿で斬ったのはわが息子であったことを知り、
あわてて現場にかけつけますが、顔をみれば、
まさしく我が子… あまりの驚きにうち伏しますが、
それでもそしらぬ顔でどうしたわけか尋ね、その場をとりつくろい家に帰ります。
書置きが料紙箱にあり、それを読むと

報いある世の理をわきまえぬ 親の心ぞ 愚かなれば

とあり、読み終わった藤内はとめどもなく涙を流し、
おかした罪を後悔するのでありました。
いくら後悔してもその甲斐なく、悲嘆にくれるばかりで、
そこで仏門に入り、命のある限り、吾子の菩提を弔うために、
出家したのでございます。

姫暗殺失敗に一度は力を落としたものの、
照夜の前は虎視眈々と機会を狙っておりました。
そして豊寿丸3歳、中将姫10歳になったとき、
老女の入れ知恵で毒酒をつくり、銚子の中に一方に毒の入った甘酒、
片方に毒のない甘酒を入れ姫を待ちました。

生まれついて優しい性格の豊寿丸を姫はたいそうかわいがって
二人は仲のよい姉と弟でありました。
いつものように姫が遊びにきた時に、頃合いを見計らい、
照夜の前は二人に甘酒をすすめました。

目の前の姫を自らの手にかけようとすることで、
さすがの照夜の前も動揺したのか、目がかすみ、取り違えて、
毒の入った甘酒を豊寿丸に飲ませてしまいました。
グーとおいしそうに一気に飲み干し、あーといううめき声を一声あげました。

その声に間違えに気付いた照夜の前は、気も狂わんばかりに抱きかかえましたが、
見る見るうちに血の気が失せ、大量の血を吐いて、
間もなく息絶えました。

毒の酒は親の因果が子どもに報いたものでありましょう。
泣く泣く野辺の送りを済ませましたが、済ましがたきは怨みの心、
ますます姫を憎むようになりました。